うよきょくせつ

 町田が掲げた“最低ライン”。
 最低ラインをクリアすることなく、シーズンは終末を迎えた。激戦のシーズン。実力差があるチームはいくつかあったが、楽な試合はひとつもなかった。全てが“真剣勝負”で全てに“全身全霊”を掛けなければこのシーズンは戦い抜けなかった。
 プレシーズンマッチを勝利することなく、そして、バイアーノの就任が遅れ始まったシーズン開幕までの道のりはまさに“紆余曲折”。プレシーズンマッチを終え、ポルトガル遠征でバイアーノが合流し、開幕を向え、開幕戦を大勝。エフリーグ初の一勝を手にする。不安を全て消し去ったかに見えた。
 しかし、2戦目の花巻戦に2−4と敗北を喫すると出口の見えない泥沼の3連敗と第一クールから“前途多難”なリーグとなる。町田ファンにとってはヤキモキする“右往左往”のリーグ展開が続くと、その先にあったのは、光だった。
 第5節、フットサルの聖地、駒沢に駆けつけた観客は1,891人。大歓声に包まれたフットサルの聖地に舞っていた歓声と悲鳴の嵐は優しく、ペスカドーラを包んでいた。ユウキが体を張ってディフェンスをする。タキが吠える。アラタが呼応する。負けられない。そして、勝ちたいといった意思が感じ取ることが出来た最初のゲーム。“雨過天晴”の名に相応しく連日の台風を吹き飛ばした。
 第1クールを終え、第2クールのスタートダッシュに成功するが、その後、シーズン2度目となる3連敗を喫する。ただ、ディフェンスに関して、バイアーノの意識がチームに浸透していることが伺えはじめていた。前からプレスを掛ける『ピヴォパラード』と、底辺の声に呼応してディフェンスが連動しスタートする『ヴォイスジコマンド』。
 チームとしての約束事が明確化されてきた。
 サイドでは縦を切る。中に行かせて数的有利の状況を作る。そして、ボランチをかけて、ボールを奪ったら速攻を仕掛ける。
 ディフェンスがはまった時、それは絶好のシュートチャンス。その様は“疾風迅雷”のごとく、激しく、風のようにしなやかに、雷のように時に激しく、相手陣地に攻め込む。
 しかし、バイアーノの合流が遅れたこともあってか、チーム状態に波があった。
 良いコンディションを常に保つのは大切なことだが、環境がそうさせてくれなかったのだろう。プロになれば・・・、名古屋のようにプロとなれれば・・・、そう思わずにいられなかった。彼らの境遇は一番厳しい。プロは自分達の実力を金額で表すことができ、そこに対して自分に足りないものを模索することが可能でその時間も環境もある。
 では、彼らは一体何を基準にすれば良いのだろうか?
 それは結果に全てが集約されているのではないだろうか。
 この、いわば“プロアマ”の環境に彼らが求められるのは“結果”だけだ。
 彼らはプロではないのに、自分達の道を切り開いていくために、プロ以上に“結果”を求められるのだ。
 それは、どういった心境なのだろう。
 想像もつかない。
 それだけではない。“勝利至上主義”を謳うだけではファンはついてこない。そこに彼らに求められるのは、“プロ意識”だ。そこにあるのは“夢”なのか“目標”なのか。
 彼らは、私たちには想像もつかない“限界点”で戦っているのだろう。
 第2クールが終了し、受けた印象は“試行錯誤”。
 彼らはバイアーノを通じて、自分達のフットサルを確立すべく、全てに置いて模索中なのだ。
 そういった意味でバイアーノの存在は大きい。
 自分達に合ったフットサルを導き出してくれて、そのためには何が必要なのかを教えてくれる。
 そして、これまでプレイングマネージャーの位置に属していた甲斐修侍の重荷がなくなったのは大きい。
 事実、甲斐修侍のパフォーマンスは例年より、さらに良く、引退を撤回した。彼の存在は町田にとっては“宝”。
 何物にも変えられない“宝”だ。できることなら、ずっと現役でいて欲しい。
 そして、第2クール最終節は浦安に1−8の惨敗。
 「こんな町田を見たくて北九州まで来たんじゃないぞ!」
 怒りすら込み上げたこの展開。
 試合後の選手の表情を見ると、それは悔しさに満ち溢れていた。
 「明日だ。明日。」
 出てきたのは罵る言葉ではなく、期待の言葉だった。
 町田がこのまま終わるはずはない。逆境を乗り越える力は彼らにはあるのだから。そこに確かに存在していたのは、光。
 第3クール湘南戦を前日の敗戦が嘘のような安定した戦いを魅せ、6−1。
 最高のスタートを切る。
 しかし、その後、名古屋、浦安に3敗目を喫すると、3位入賞が遠ざかっていく。
 後半戦に突入し、チームコンディションを上げていったチームは町田と大阪。逆に下げていったチームは湘南だった。
 湘南の背中が見えると、3位入賞が見えてきた。そして、3位神戸との勝ち点差3でむかえた最終節。
 舞台はセントラル。
 このゲームには、これまでの町田のゲーム全てが集約されていたのではないだろうか。
 前半、前節の大阪戦のように前からプレスを掛ける。そして、取り所とみると、バイアーノの声が掛かる。
 それに連動して選手が動きボールを奪う。
 前節の大阪戦同様、立ち上がりは非常に良かった。
 シーズン序盤の面影はそこにはなく、シーズンを通して、成長した『ASVペスカドーラ町田』の姿がそこにはあった。
 チャンスを多く演出していたのも町田。
 神戸はハーフコートで引いて守り、前がかりにならない約束事があったのだろう。
 町田のパス回しにつられることなく、4人のブロックが安定し動いていた。
 しかし、そこに突破口を見出したい町田は、レオのミドルを中心に神戸ゴールに仕掛けていく。
 このゲームだけは負けられなかった。
 アラタが体を張ってディフェンスをこなす。
 フィフティフィフティのボールに対して、町田の選手は思い切り良く振りぬく。
 気持ちは絶対に負けてはいけない。
 相手に勝つためには、相手より点を多く取れば良い。
 しかし、その前に相手より勝ちたい意思を多く持たなければならない。
 前半、その想いは交錯に交錯を重ね、0−0。
 意地と意地とがぶつかり合っていた。
 後半が開始されると、それまで“一進一退”の攻防を繰り広げていたゲームは、町田のオウンゴールから一変する。
 そのゴールから4分後の26分、その1分後の27分と立て続けに奪われ、0−3。
 呆然と見下ろしていた町田サポーター。
 “秋風索漠”この言葉が妙にシックリときた。
 負けてはならないこのゲームに待っていたサプライズは町田にとって、惨酷的で、絶望的な点差だった。
 バイアーノが肩を落とし、腰も降ろしてしまった。
 指示の声も出なかった。
 諦めてしまったのか?
 すると、始まった。
 第3クールの花巻戦から徐々に調子を上げ始めていたミヤが魅せた。一点目は、個人技で。戦慄ミドル。
 会場が沸く。
 そして、2点目。
 一体どれだけのパスを回しただろうか?
 上から見ていると良くわかった。町田のパス回しに翻弄され徐々に崩れ始めていく神戸ディフェンス。神戸ディフェンスが中央に偏り、前に二人突っかかってきた。そこを甲斐、ミヤのワンツーで交わすとミヤが単独でフリーになる。
 そして、1点目と似た位置からシュート。1点目と違い、チームでとった1点に観客はさらに沸く。
 こうなれば、町田のペースだ。
 パスを繋ぎ、神戸に触らせない。何度か危ない場面もあったような気がするが、正直そこまで覚えていない。
 それだけ町田の集中力が凄かった。そして、残り2分。
 現在得点王の『シューティングスター』が魅せた。
 得意の左サイドでボールを受けると、今までは縦の突破を試みていたレオ。しかし、縦の動きをアクションとして、レオが選んだのは中へ切り込むこと。
 左足も同じように蹴れなければこの縦のアクションは意味がなかっただろう。レオの意思が突破口を切り開いた。
 中へ切り込むと、そのスライドは深く、マークマンは完全に裏をかかれ、引き離された。ニアをカバーしたキーパーの逆をつき、ファーへの弾丸ミドルはキーパーの反応を遅らせた。
 あの細身の肉体からは想像もつかないパワーを否応ナシに観客、そして、神戸に魅せつけた。
 3−3。
 後1点。
 この時、どれだけの人が願っていただろうか。ユウキの飛び込みに観客の悲鳴が飛ぶ。
 そして、残り、40秒でむかえた。シュートチャンスに放ったアラタのシュートは惜しくも、キーパーのファインセーブに阻まれる。
 無常にも会場に鳴り響く、終了のブザー。
 周りを見渡すと、それを見渡す観客の目には涙があった。
 選手は必死で涙を堪えていた。
 このゲーム。今シーズンの町田の全てが集約されていた。勝ちが拾えるところで逃す。そして、町田が4位に甘んじている理由として挙げられるのが、分数がないこと。
 分けが多いことが必ずしも良いことではないが、負け試合をそこまで持っていくことが重要となってくるのだが、欲しかった引き分けが、このゲームで来るとはなんと皮肉なことだろうか?
 今シーズンの結果は10勝10敗1分。“紆余曲折”でむかえたシーズンは“紆余曲折”の終わりをむかえた。
 それが今の町田なのだろう。大事なのはそれを受け入れること。
 来シーズンの優勝のためにもそれは受け入れなければならない。神戸に勝ちきれなかったのも事実で第1クールの浦安戦を勝ちきれなかったのも町田に何かが足りなかったせいなのだろう。
 それが実力といえばそれまでだが、そうではない。
 町田には力がある。
 これから始まる長い戦いはまだ、始まったばかり。
 仕切り直す機会はいくらでもある。
 “挫折”と“再生”を繰り返し、それは個性に変わっていくのだから。