そんざいいぎ


 チーム状態は悪くなかった。
 突発する数々の事故に対してただ呆然と立ち尽くす。そして、自らのミスでリズムを狂わせ気がつけば大量失点を浴びてしまった。
 お互いゆずらない展開で均衡した試合状況の中、前半、多くチャンスを演出していたのは町田。浦安がゴレイロに返せないとみると前から激しくプレスをかける。この日は基本的にはオールコートでディフェンスをしいていた町田。そのプレスは、はまりにはまっていただけに、あの早い時間帯でゴールを奪えなかったのは痛かった。
 そして、ミスからの先制点と事故とも言える2点目。そこにつけ込むべく、3点目を奪う浦安。悔しいかなこの試合浦安の自信と強さが光っていた。
 “カスカヴェウvsプレデター”
 『ASVペスカドーラ町田』の前身である『カスカヴェウ』と『バルドラール浦安』の前身である『プレデター』はチーム発足時から凌ぎを削りあい、袂を分かち合ってきた云わば“好敵手”だ。
 今節、小田原アリーナで開催された『湘南ベルマーレ』vs『名古屋オーシャンズ』は名古屋が5−1と勝利し、“F・LEAGUE初代王者”の栄冠に輝いた。
 やはり、プロとアマの差は大きく、甲斐修侍がセントラル名古屋戦後に語った“フィジカルベース”に全てが集約されていた。
 名古屋の独走を阻止するためには何が必要なのか。それらを追求していかなければならない。
 なぜなら、彼らは勝つことこそが“存在意義”なのだから。
 自らの“存在意義”を示さなければならない。
 そして、そのために時には泥臭さも必要だろう。観客を楽しませることは確かに重要だ。しかし、彼らに目指してもらいたいのはそこではない。私は彼らに勝ってほしい。
 彼らが好きだから、喜ぶ顔が見たい。
 この世界では勝利こそが“存在意義”なのだから。
 この日の観客動員数は2,133人。
 最後のホームゲームに集まった観客は多く、今シーズン一番とも言える盛り上がりをみせる。
 レフェリーのホイッスルが聞こえないほどの歓声に包まれ始める“聖地駒沢”会場の熱はゲームが進むにつれ、徐々にヒートアップ。
 しかし、その歓声のほとんどは、ゴールを多く奪った浦安に浴びせられたものだった。
 町田サポーターからはタメ息が漏れる。
 やり場のない感情は、どこにおさめたらいいのだろうか。止まることのない浦安の猛攻をただ、呆然と眺める。
 点差が開く中、29分と早い段階からパワープレーを敢行。しかし、この日、上回っていたのは浦安の集中力だった。
 森谷のゴールで点差を詰めるもののさらに突き放される。
 再び、開き始める点差に対して、半ば諦めかけたその時、甲斐、相根のワンツーからフィニッシュは甲斐。終盤に魅せた甲斐修侍意地の一発。無理な体勢から放たれたシュート、体勢が崩れ、倒れながら放ったシュートは甲斐の気持ちを乗せて浦安ゴールへ突き刺さる。その後に甲斐があげた雄叫びと両手の拳は力強かった。
 あの時、同じ気持ちになっていたことを幸せに感じつつ、試合終了までの残り時間が刻一刻と近づいてくる。
 もう一度、魅せて欲しい。その想いは虚しく試合終了のブザーが会場に鳴り響く。
 彼らはこの日、“存在意義”を示すことが出来なかった。
 3位の神戸は花巻に勝利し、勝ち点差が6となってしまった。次節、神戸が名古屋と対戦するため、負けると想定し、次節は絶対に落とせない。最終節で神戸との直接対決に全てを賭けるためにも次節だけは負けてはならないゲームだ。
 町田に、そして東京に根付き始めた『ASVペスカドーラ町田』。
 力を持っている彼らだからこそ挑んでもらいたい。これから進むのは、酷く険しく、そして、果てのない道となるだろう。
 しかし、どんな困難に見舞われようとも彼らならそこに示すことが出来るはずだ。
 自らの存在意義を。
 そして、惜しみない祝福を。